夜明けごろ、一人ぼっちのカエルのシモが、いかにも夏らしい森の沼辺に、水藻を見つめてすわていた。とても静か。木の枝で、小鳥が二、三羽ないているだけ。やさしい風が、シモを軽やかになでた。まるで、いっしょに遊びましょうと、さそうように。しかし、シモは、そんな気分ではなかった。そのとき、とても悲しかった。大粒の涙がポロポロ頬をつたい、ハスの葉におちた。とても寂しい感じだ。かれの気持ちなど、だれもかまってくれないだろう。 「どうしたの」とつぜんハスの花のあたりから、奇妙な声がした。シモは、びっくりして、水をのぞきこみ、うれしいことに、もう一匹のカエルが、かれに話しかけているのを見た「ぼくは、ただ・・・あの・・・ここにすわって・・・あの・・・かんがえているの」シモは、ちょっとびくびくしながら答え、眼にのこる涙のつぶを、あわててぬぐった。 「ここに、お水のなかにおいで。そこにすわって、かんがえているより、ずっと、きもちがいいよ。そこでは、かなしい顔しかできないでしょ」カエルのシルは、そう言って、水のなかにとびこんで泳ごうと、楽しそうにシモをさそった。シモは行った。水に、シルのそばに、ハスの花のまんなかに、みごとにとびこむ水音だけが聞こえた。シモは、よいきもちがした。愉しい気分で、まったく歌いだしそうだ。それで、ハスの葉の上にのぼり、できるだけじょうずに、カエルの歌をケロケロ歌った。シルは、シモが歌うのを、ほほえみながら見ていた。シモは、なんてよい声をしているのかしらと、ほれぼれ聞きほれた。声がやむと、ハスの葉からハズの葉へ、いっしょに泳ぎにでかけ、おひさまはだんだん高くのぼり、新しい一日がはじまった。 永遠の友ができてカエルのシモの悲しみは、きゅうに歓びにかわった。 一人ぼっちは、もう悲しみの影もない。 |
蛙のシモとシル |