大きな悲しげな瞳が、どこかを見つめ、頬に涙が光っていた。泣いているのは小さな森ネズミの坊やだった。木の実狩りのとちゅう、お母さんからはぐれてしまった。そして今、大きな赤い天狗茸 の下で、いと悲しげに、鼻ヒゲをおろおろ震わせ怯えて坐りこんでいた。 「やあ、ちいさいの。きみはどうしたんだい?」そばの、ジュニパーの藪の方から明るい声がそう聞いた。それは休憩して羽を休めていた森の見張り鳥の四十雀(しじゅうから)のティティトゥウ、偶然この悲しい状況を目にしたのだ。ネズミの子は、敏感に顔を上げ、涙で曇る目で四十雀を見上げ、ジュニパーの藪の小枝にいる鳥をいぶかしげに眺めた。「ぼ、ぼく・・・は・・・は、はぐれちゃって、ウェーンウェーン。どっ、どこにもお母さんが見つからなくて、エーン」小さなネズミのミキは、そう答えると、心がはりさけそうにしゃくりあげ、泣きながら小さい体を震わせるのだった。四十雀は、ネズミの子をしげしげと見つめ、小さなはぐれ子ネズミをひどくかわいそうに思った。事態を解決しなければ、しかもすぐに、とティティトゥウは考えた。 |
天狗茸 |
泣いているミキ |
「そうかそうか。しかし母さんよ、すぐにミキを探しに出かけるか、どこかに助けを求めたほうが良かったのではないか」次にティティトゥウはそう尋ねた。「自分も道に迷ってしまうんじゃないかと怖くて、それさえできませんでした。私は方向音痴です。助けてくれそうなものに出会いそうもなかったし。私は一人ぼっちですから、じっとしていました。私にはミキしかいない、ほかに子どもはありません。ミキの父親は死にました。まえに私たちが暮らしていた、あの大きな森で、大きな獣が食べてしまったのです。恐ろしかった!おおきい野良猫 でした。そこにいるのがとても怖くて、それで子どもを連れて引っ越しました。それなのに、あの子まで死んじゃった。もう死んじゃったにちがいない。ああ、かわいいミキ」母ネズミは愁嘆するのだった。 「そんなことはない!母よ、安心しなさい。ミキは生きている。元気で安全にしているよ。このすぐ近くの隠れ場所にいる。ちょっとまえに会ったんだからね。日が暮れないうちに、すぐそこへ行った方が良いだろう。ついてきなさい、母よ」鳥は言うが早いか飛び立った。 母ネズミは、びっくりして鳥を見ていたが、立ち上がると四十雀の飛行について行った。小径にそって走っていると、小さな森に住むほかのものたちにも、こんどは出会うのだった。しかし、母ネズミは、立ち止まってだれかと知り合う閑もない。ミキのいるところに、ひたすら急いだ。鳥は、木から木へ、音もなく飛び、そのまにも、母ネズミはついて行くが、下の地面を走って、いっしょについて行けるだろうか。行けるとも。 とつぜん天狗茸のほうに飛翔した。そして、母は、もう遠くから自分の子を見つけた。その子は、ちいさな木の実カゴをわきにちょこんと置いて、キノコの下に、おりこうさんに坐っていた。ミキは、もうだれかこちらに来るのに気づいた。 「お母ちゃん」この子は、鋭く叫んだ。「坊や」母は、息を切らせながら答え、ミキのそばにかけより、愛おしそうに、男の子を抱きしめた。「さあさあ、かわいいミキ坊は、もう大丈夫。もう泣かなくていいのよ。きっとお腹がぺこぺこで、疲れているでしょう。すぐにお家に帰りましょう」母ネズミは、あたたかく話しかけ、涙で濡れたミキの顔を、赤茶色のハンカチで拭った。 |