秋の早朝、空っぽの月の目が見つめていた。霜の布団に、絡まるように寄り添って、花が眠る。灰色の絹のような小川の精霊が、空に垂れ下がった木の葉を、悲しげに眺めていた。長く暗い冬が、またやって来る。森の池には、もう霜の霧が立ちこめていた。蝶々の羽の銀粉のように、儚げな霧。樹々は、まるで花嫁のように、氷の真珠のベールに包まれていた。森の小径、白霜に覆われた苔一面の中、ツルコケモモの赤い実が、血が滴るように膨らんでいた。自然は色のシンフォニー、燃えるような赤に染まっていた。夏のさよならパーティー。紅葉の時。
冬の神が、急ぎ足で、どんどんやって来る。雪の精霊が到着するまで、至る所に冬が来るまで、もうわずかだ。湖の岸辺の森で、冬の神が、氷柱、微かに光る氷の真珠、キラキラ煌めく霜の星を、大きな袋から出し、辺りに撒き散らすと、風景は一面、驚くばかりに目映く煌めいた。ネズミの家の小さな窓辺にさえ、凍える寒さがやって来て、真っ白な霜の絵筆で、氷の花を描いた。
森に住むものたちは、すっかり冬の備えをした。食べ物は倉庫一杯、住処は修繕してぴっちり閉めた。雪だまりに吹きつける冷たい氷の風が入り込まないように。
冴えわたる秋の朝が明けると、森に棲むものたちは、いつものように目を覚まし、いそいそ働き始めた。薄暗い夜明けに、さっと光りが射す。あれはきっと、ローソクの角灯の灯りだ。湖の岸辺の小径を、森へ近づいて来る。湖の彼方から。ブルーベリー山の山奥に棲む大精霊が、森の見張りのフクロウに話しを伝えるために、角灯を手にして大急ぎでやって来た。フクロウのラムの処は、こんな突然の訪問の訳がすぐ分かった。大精霊は、大変な危機を知らせに来たのだ。北からやって来たはぐれ狼、ひどく性質の悪い腹ぺこのアリュが、良い塩梅の今頃の季節、森を彷徨いている。小鳥の知らせで、狼がこの辺りに来ていることがはっきりした。大精霊は、これをすぐ森に棲むものたちへ知らせるようラムに頼むと、また急いで次の森へ立ち去った。
ラムは、精霊の知らせに礼を述べると、口笛の合図で鳥の群を呼び集めた。小鳥たちが到着すると、ラムは事情を話し、一週間、夜は外出しないよう指示した。小鳥たちは、すぐさま森に棲むものたちへ知らせに飛び立った。こびとのトメラは、じっと告知を聞いてから、狼をそんなに怖がることはないとすぐに言ったが、それでも大人しく告知に従った。
大精霊の訪問から、三日後、それが起きた。怖ろしい狼アリュが、湖の岸辺の森に姿を現した。夜になり染めの頃だ。大きな怖ろしげな黒い物体が、原っぱの外れから、森の方へ忍び込んだ。幸い、小さなものたちは、家の中にいるようにという告知に従い、その頃すでに家に閉じこもっていた。数羽の鳥だけが外で見張りについていた。樹木の守りに包まれた辺りの巣穴を見守った。森では、毛むくじゃらの狼アリュが、近くの道や、辺りの地面の臭いを嗅いでいた。そこいらじゅうを穿くり、前肢で切り株の苔や草を引っ掻き、茂みの中、石の洞まで隈なく捜し回った。食べる物が何も見つからないので、呻り、吠えたて、苛立ってぶつくさ言いながら、メラメラ燃える松明のような眼孔で、憎々しげに辺りを睨みつけた。本当に腹ぺこだった。小さなリスやウサギを見つけて食べた。でも、焼け石に水!
最初にシジュウカラのティイクがアリュに気づいて、鋭く叫んだ。すぐに闘うつもりで、すべての鳥たちが、喧しく囀り、啼声は森中に響きわたり、小さな獣たちは、引き隠った家の中で、それを耳にした。知らせを受けたものたちは守りを固め、狼に察知されないよう、じっと息を潜め、家の巣穴にひっそり身を隠していた。大変な危機に見舞われたのが、パアスタイネン一家だった。残忍な狼が、巣穴の間近かで獲物を捜していた。
しかしアリュは、なぜか穿り回すのを止めた。なぜか分からないが、ありがたい成り行きになった。狼は急に身を起こし、ぶるぶる耳を震わせ、空気の臭いを嗅ぎ、三回遠吠えして、雷に撃たれたようにびくっとすると、森の小径を北を目指して戻っていった。小鳥たちは口々に、危機が回避されたと囀りあった。そうして森に棲むものたちは、ほっと安堵の溜息をつき、巣穴から外へ出て来た。怖ろしく辛い時は、いつだって、そうとう長く感じるものだ。だから危機が去ると、つい嬉しくて、お祭り騒ぎになる。翌日、皆は、こびとのトメラの広い草ぶき小屋に出かけた。主賓は大精霊だ。
その夜、一瞬にして秋は掻き消え、天空に大地に吹雪が吹き荒れた。北国は、また冬に閉ざされた。