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19 パアスタイネンの婚礼

 夏の朝、太陽が目を開けると、新しい日が始まる。朝霧が、森の小径、草の上や花びらに、雨の精霊の涙のように煌めいている。
 猛暑の一日になった。空気がすでに重く漂い、雷になりそうだ。何もする気になれない。日なが一日、ただじっと涼しい日陰でくつろいで、猛暑が和らぐ夜になると動きだす。
 しかし今、何もしないでいられない。小さな湖の岸辺で、若いパアスタイネンのカップルの婚礼がある。森の小動物たちが、婚礼に招待された。もうなん日も前から、準備にかかっていた。一族の主婦たちは、森の幸から、多数のご馳走や飲み物の支度をして、森の沼の岸辺へ、生い茂る野バラの茂みの根もとへ、大忙しで運んでいる。そこには、婚礼の祝いの席が設えてあった。祭りのテーブルは木の切り株で、木の葉を敷きつめた切り株の上に、婚礼のご馳走が溢れるほどふんだんに並べられた。大空のもと、ようやく祝いが始まる頃、青空に、黒雲が立ちこめてきた。それで、婚礼の司祭を務める真珠フクロウのラムは、早いとこ結婚式を始めようと、大急ぎでやって来た。お客たちは皆、すでに集合して、大きな野バラの茂げみの日陰に座り、新郎新婦を見つめていた。花嫁が立つステージは、苔むして朽ちかけていたが、満開の花々で飾られていた。花嫁は、恥じらいのある可愛いらしいパアスタイネンの乙女だった。頭に空色のワスレナグサの花の冠をつけ、クモのティルダが真珠を鏤めて織り上げたクモの糸のベールが大地に長くとどいていた。手には、ワスレナグワの花束さえ持っていた。一方、パアスタイネンの美貌の花婿の祝いの装いといったら、ワスレナグサの胸飾りをつけているだけ。
 フクロウのラムが厳かな顔つきで、結婚する二人の前に立ち、エッヘンと咳払いをすると、声高らかに唱えた「では・・・愛する友よ! 結婚するこの二人のように、自然は、今が一番美しい。 喜んでお伺いしよう。ヨオナス・クッレルヴォよ、あなたは死が二人を分かつまで、サイラ・ヴェンラントゥを愛しますか?」花婿のヨオナスは、鼻先が微かに震えていたが、雄々しく言った「はい、もちろん、愛します!」次に、フクロウのラムは、花嫁のサイラに、同じく尋ねた。「はい、私は愛します」答える声は、緊張に震えた。そうしてラムは、誓いを立てた二人は今から夫婦になったと宣言した。
 宣言が終わると、皆は贈り物を持って、できたてほやほやの夫婦の周囲に集まり、末永くお幸せにとか、お子さまに恵まれますようにとか、口々に祝った。いよいよ、ご馳走を食べる宴の席になった。まず二人を称え、ハチミツ酒で乾杯。フクロウのラムが、テーブルのわきに立ち、長々と祝辞を述べた「はてさて。ヨオナスとサイラは、共に道を歩み始める。愛は、辛い時にも太陽のように照らしてくれると覚えておきなさい。愛は、まるで・・・」
 ピカリと光った!その直後、天も裂けよとばかり、雷の物凄い轟きが聞こえた。誰も彼も大慌てで、結婚式のご馳走をテーブルからかき集め、急いで森のこびとトメラの小屋へ走り込んだ。以前にもそこで、ちょっとしたお祝いをしたことがあるし、重要な告知はいち早くそこに集まるし、小屋は広く、居心地が良い。皆が中に入った途端、土砂降りが来た。
 「お祝いが、分かったのね」花嫁の母がそう言って、娘を胸に優しく抱よせた。ようやく楽しみのご馳走だ。食べ物も飲み物もたっぷりあった。いろいろ出し物もあった。トメラが詩を朗読し、妖精たちがダンスを踊り、ペイッコの子が音楽を奏で、ハリネズミの子のウンタモとタルヴィッキとエェトウ、そしてモグラの男の子のウレルミ、スズメのミッラ、ミソサザイのヴェンラ、カエルのタル、蝶々のヤデが、合唱し、婚礼客たちを楽しませた。
 そうして二人を祝って一日が過ぎた。夜になり、雷も土砂降りも止むと、皆自分の家へ帰って眠った。素敵な一日だった。ヨオナスとサイラもそう考え、二人の小さな家でいっしょの生活を始めたのだった。森ネズミの夫婦のすぐ隣り、湖の岸辺の小径わき、苔むした切り株の奥深くで。


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