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10 新しい家

 むかし、ある美しい夏の早朝、ハリネズミの家族は、もう動きまわっていた。せまいネズミ道を、森の沼のほうに、あとからあとから、火花のように、とびはね、天狗茸の家のほう、アリの建築現場、キツツキのアパート、モグラのトンネル工事、トカゲの運動場、リスのむかしの家、ミツバチのハチミツ工場を、とおりすぎて行く。ときどき、咽喉のかわきにおどろき、雑草の葉から新鮮な露の雫を飲んだ。
 太陽の日射しは、すでに暑かった。暑い一日になりそうだ。ハリネズミの一家、母と父、そして三匹の子どもたちは、まえの家が手狭になったので、新しい家を見つけた。そして、森の沼の近所に、ちょうど手頃な住処があると聞いた。その場に着いてみると、そこにはすでに、家さがしをしていた他のものが居ついていた。ネズミの家族と、二匹のモグラと、トカゲと、若いリスの二人づれ、ひとりぼっちの老ウサギ、三匹のパアスタイネン、二羽のキツツキ、夏カゼをひいたカササギ。カササギは、くしゃみ、鼻づまりで、いつまでもクスンクスンしているのに、めずらしがりやで、しゃべりたがりやなので、あいそうよくしていられるのだった。
 ついに、皆がまんぞくする河岸の家の片隅に決めた。沼地に、皆がほしがる手頃な物件を、口論もしないで見つけた、ワシフクロウの裁判官が見張りについている真下だ。ハリネズミの家族も満足した。それは切り株の内装された新しい家で、みごとなシダの茂みに囲まれていた。切り株の根元に青いアネモネ、森の星の白い花、勿忘草とリンネソウの花が茂り、ようこそ新しい家へとハリネズミの家族を迎えてくれた。ハリネズミたちは、美しい優雅な植物たちに頷いて、囁きかわし、花の花弁にハネを休めに舞い降りる蝶とおしゃべりした。
 夏の日は、もうすぐ終わり。黄昏も夜の腕ですっかり寝静まった。森に住むものたちは、夏の夜の平和な眠りについた。


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