輝く星は、天高く平和を頌えていた。風は、天使が奏でるオルガンのように天駈け、野生の白鳥の飛び立つ声が、うす暗い樹枝を震撼させた。月光が、小川の流れのさざ波になり、そこに星が泳ぐ。岸辺では、黒髪のように苔生した岩石が、流れに揺れる自己の姿をしげしげと眺めていた。あたかも結婚式を控えた緑の髪の長い娘のように、自分自身を水鏡に映している。天穹型の森の樹々が、囁き語りあっていた。ミミズクが、星にむかってホーホーと鳴く。ものみな熟睡る丑三つ時だった。
岩の洞のうす暗がりに、ペイッコ{ペイッコは、北欧伝説で地下や洞窟に住む生き物。ムーミン・トロールはペイッコである}の長老が暖炉の火影に坐り、男の子たち、なつきと香り花とつぶやきに、夜のお伽話を聞かせていた。長老は、そうやって人生の知恵も教えた。ペイッコの子どもたちは、もうずっと小さい頃から、上手な生き方や、人生で最も美しいものの価値の判別法を学んでいた。
「あらゆるものの、心の声に耳を傾けなさい。それがいつも正しい方角へ導いてくれる。慌てて、まちがった道に行かないように。そして自然 ― 私たちのこの愛しい森のことだが ― 自然を大切にしなさい。 そのうち、あなたたちの子どもたちも、この聖らかな美しい森で、私たちのように安全に暮らせるように。しかし、人間は避けなさい!人間は信用できないよ。仮面で装い、植物好きなふりをする。私たち自然に生きるものや動物たちは、そんな化けの皮を見破ることができないのだよ」
「ねえ、ジジよ。嫌な気持ちになったら、どうすればいいの」その時、なつきが尋ねた。
「忘れなさい。そうすれば消えてしまう。それ以上に良い方法はないだろう」ペイッコの長老は、暖かく微笑んで答え、ことばを継いだ。
「人生は大旅行だ。小道がたくさんの不思議をもたらし、終いに外へ、星の森の方へ行ってしまう。子どもたちよ、いつも自分らしくしていなさい、これを覚えておくように。いつどんな時も!そして、他のものに良くしてあげたいという気持ちをもって、優しく正直にしていなさい。そうすれば、悪はきっと懲らしめられる。争いも避けるのだよ。総じて悪い仲間も避けなさい。しかし、寂しいものや弱いものを蔑んではいけない。そういうものたちは、暖かい友情を、誰よりも必要としているからね。そして、いつも許し、また謝ることを覚えておきなさい。些細な理由でも。それから、ありがとうはいつも使えることばだよ。ありがとうを言うと、良い考えと親切心と明るい気持ちになるよ。友だちの価値は心持ちで決まるものだ」
「ジジよ。愛って、ほんとうは何なの」次に香り花が尋ね、夢見るように溜息をついた。
「愛というのは、なにか他のものを、ほんとうにとても好きになることだ。ちょうど、私がおまえさんたちを好きなように。生涯で最も大きく、いちばん美しいものだよ。愛は時空を超える。山より高く、海より深い」と、長老は、まるで独り言のように、静かに答え、瞑想するように、小窓から天空の暗い青を眺めた。銀河の光の帯が、暗い静寂の空にかかっていた。
つぶやきは、もう眠たかったが、この子もなにか尋ねたいことがあったのに、自分ではそれが分からなかった。頭の中に違う質問を見つけ、それを長老に聞いた。
「ねェ、ジジよ。長い旅は遠いの?」「そうとも!遠いから長旅だよ。そこに向かって一生歩き続けても、目的地に着かない。というのも、遠くというのは、際限のない旅だからね。でもたまに、近い旅もあるよ!質問の意味をじっくり考えてみよう。急ぐことではないのだから。すべては風まかせだ」長老は、教訓的に答えて、椅子から立ち上がり、レンジの方へ歩いていくと、夜のお茶の支度をはじめた。
お話は、その夜はこれでお仕舞い。